公務員は、法令を駆使して仕事をしていきます。
公務員としてこれから働く方や、公務員としてすでに働いている人にとって、法令を正しく解釈し、施策に反映していくことは、非常に重要です。
来春から公務員として働く予定の方や、すでに公務員として働いている方に向けて、知られているようであまり知られていないであろう、法令の独特な言い回しについてご消化していきたいと思います。
入省あるいは入庁後に役立つ知識になるかと思います。
今回は、法令の独特な言い回しについて代表的なものをご紹介していきます。
「削除」と「削る」
日常生活で削除と削るを使い分けている方はいないかと思います。
しかし、法令で使用する場合には、意味が異なってくるので注意が必要です。
法令上、「削る」と使う場合には、削られる対称の箇所や条項があとかたもなく削り去られ、削られた痕跡が残りません。
一方、「削除」というのは、その削除となった条項が「第◯条 削除」と行った形で残ります。
削除として条文の痕跡を残すことのメリットは、条項の繰り上げをしないで済む点です。
例を挙げて説明します。
第5条 ・・・・・・・・・・
第6条 ・・・・・・・・・・
第7条 ・・・・・・・・・・
第8条 ・・・・・・・・・・
第9条 ・・・・・・・・・・
となっていたとしましょう。そこで、第7条を削除したとします。そうすると、以下のような表記になります。
第5条 ・・・・・・・・・・
第6条 ・・・・・・・・・・
第7条 削除
第8条 ・・・・・・・・・・
第9条 ・・・・・・・・・・
削除とすれば、第8条以降の数字を1つずつ繰り上げる必要が無くなります。
また、「第◯条 削除」とある場合には、後でその条文を改正して新たな内容を盛りこむこともできます。
「場合」・「とき」・「時」
「場合」も「とき」も、どちらも仮定的条件を示す言葉です。
ただし、仮定条件が二つ重なる場合には、大きい方の条件には「場合」を、小さい方の条件には「とき」を使うことになっています。
仮定的条件を表す場合には、「とき」や「場合」を用い、「時」は使いません。
たとえば、「野球をする場合において、ピッチャーをするときは」といった使い方をします。野球という大きなくくりの中における、ピッチャーがあるわけですから、大きな条件である「野球をする」は、「場合」を使用し、相対的に小さな条件である「ピッチャーをする」は、「とき」を使用します。
「場合において、ときは」という言葉で覚えましょう。
法令の中では、漢字の「時」を使う場合もあります。これは文字通り、時点や時間が問題となる場合にだけ使われます。
たとえば、「契約した時から」などのようにです。
「又は」・「若しくは」
「又は」「若しくは」も選択肢を示す用語です。
単純に選択肢を示す場合は、「又は」を使います。
「AかBか」、「AかBかCか」と単純に選択肢を示す場合には「A又はB」、「A、B又はC」というように使います。
ところが選択が複雑で二段階以上になる場合があります。
こうした場合には「若しくは」を使用します。
小さい接続の方に「若しくは」を使い、大きな接続の方には「又は」を使い「A又はB若しくはC」という表現をします。
たとえば、「国家公務員若しくは地方公務員又は民間事業者」といった感じです。
「又は」と「若しくは」が使われている条項を読む際に真っ先にしなければならないことは、「又は」を見つけることです。
なぜなら、そこで大きくグループ分けがなされているからです。
大若し・小若し
選択が複雑で三段階になったときの「若しくは」についてご紹介します。
「又は」は一番大きな接続でしか使えないというルールがあります。
「又は」は一番大きな接続だけで使います。
ですから、それ以下の段階での接続には「若しくは」を重ねて使うことになります。
「社長若しくは(A)専務が不在のとき若しくは(B)社長若しくは(A)専務が死亡したとき又は社長若しくは専務を置かない組織において、・・・・」
上記文章は、「若しくは」が多数存在します。こうした場合、どこで選択肢を分けているのでしょうか。まず、最初に注目していただきたいのが、「又は」です。ここで大きな分類がされます。「又は」を境目に前半と後半に分かれています。
前半部分に「若しくは」が多数存在しています。そこで「若しくは」を「若しくは(A)」と「若しくは(B)」の二つに分類しました。
「若しくは(A)」は小さな接続、「若しくは(B)」は大きな接続です。
「若しくは(B)」の前後で大きくわかれ、その次に「若しくは(A)」で小さくまた分かれます。
「及び」と「並びに」
「及び」も「並びに」も併合的接続詞です。さきほどご紹介した「又は」の場合のように、普通の場合に使われるのは「及び」の方です。
「AとB」、「AとBとC」と単純に併合的な意味を示すには「A及びB」、「A、B及びC」と表します。
ところが、この併合が二段階になる場合には「及び」に加えて「並びに」を使います。つまり、まずAとBをつなぎ、それからこのA・BグループとCとをつなぐというような場合です。このときは「A及びB並びにC」と表現します。
あれ?「A並びにB及びC」ではないの?と思われたのではないでしょうか。
「又は」が「及び」に対応するのであれば、「及び」で大きく分かれるのではないかということですね。
ここで注意が必要なのは、「又は」は一番大きな接続だけで使いますが、「及び」は一番小さな接続だけで使われます。
「及び」は、「又は」と真逆なのです。
それ以外の接続で使われるのはすべて「並びに」です。
大並び・小並び
「及び」が一番小さな接続だけ使われることから、併合が三段階になったときには「並びに」が重複して使われます。
「新規採用並びに(A)転勤及び出向並びに(B)退職」といった感じです。
「並びに」が多数存在します。そこで、「並びに」を「並びに(A)」と「並びに(B)」の二つに分けました。
「並びに(A)」が「小並び」で、「並びに(B)」が「大並び」と言うことになります。
つまり、まず「並びに(B)」で、「新規採用並びに(A)転勤及び出向」と「退職」の大きく二つに分かれ、「並びに(A)」で「新規採用」と「転勤及び出向」に分かれます。
最後に「及び」で「転勤」と「出向」に分かれるわけです。
つまり、「及び」は一番最後に分けるべきものなのです。「又は」と真逆ですよね。
たすき掛けの「又は」「及び」
たすき掛けというのは、「A又はBのC又はD」と使う場合です。
文の構造は、「A又はB」と「C又はD」で大きく分かれています。
こうした場合、普通は、「AのC「AのD」「BのC」「BのD」の4とおりの組み合わせを頭に入れて読むことになります。
イメージとしては以下のようになります。
地方自治法100条12項に以下のような一文があります。
地方自治法100条12項「議会は、会議規則の定めるところにより、議案の審査又は議会の運営に関し協議又は調整を行うための場を設けることができる。」
これは、「A又はBのC又はD」といったたすき掛けの良い例です。
議会の審議は、協議にも調整にもかかります。そして、議会の運営も協議と調整両方にかかります。
ただし、多くはありませんが、条文の意味から、まれに「AのC」と「BのD」と対応させてしか読まない場合があります。
A-C
B-D
ということです。
また、「又は」を使わずあえて「及び」を使うたすき掛けもあります。
「A及びBのC又はD」というようにです。
最初の部分に「及び」を使っているわけです。
国家公務員法106条12第2項に次のような一文があります。
国家公務員法106条12第2項「委員長及び委員は、在任中、政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。」
「しなければならない」と条文で締める場合には「委員長及び委員」が望ましいと考えられるわけです。
「委員長又は委員」とすると、「委員長は政党その他の政治的団体の役員となってはいけない」+「委員は積極的に政治運動をしてはならない」とだね読まれる心配があります。
つまり、先ほどご紹介した、
A-C
B-D
とだけ読まれることを心配しているのです。
そのため、「AのC」と「BのD」だけと読まれないために「A及びBは、C又はDのことをしてはならない」としたのです。
「しなければならない」と義務づけをする場合には、罰則を伴う場合も多く、その義務づけ内容を明確にしなければならないと考えからでしょう。
さらに詳しく知りたい方は、以下の本がおすすめです。ぜひ入庁式前に読んでおくことをお勧めします。